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◆ 新ビジネスの予感2006/08/15 (Tue)

 8月11日の朝5時半に水野に起こされ、三重の松阪に下見に出かけた。炎天下で暑さは厳しかった。ホテルに着いて、井戸水を見たが、分析の値より鉄・マンガンの汚れが激しい。排水溝が赤茶けている。現場の責任者がいろいろと業者に当たったようだが、飲料水の水質基準を保証することは出来ないと言われた、と話していた。貴方達も無理ですよ、と言われたみたいだった。依頼主が我々の提案に保証を求めてくるが、本当に汚れがとれるのか不安なのだ。設計も大変だ。井戸水を直接、35トンの地下ピットに蓄えて、その水を砂濾過でろ過し、45トンの受水槽に送り込んでいる。原水が悪いので、制御も通水量も機器が故障していて、実情が掴めない。又、既存設備の図面も資料もないと言う。依頼主はアメリカのファンドで、金融の事は分かっても水の事は分からない。当社に仕事を頼んで来て、しつこく保証を求めてくるが、案外、極端に水が悪いのを先般承知でいるのだろう。私の会社に依頼するケースは大概訳ありが多いし、予算が厳しい事も多い。
 大手フィルムメーカーも相談に来られ、口座も開設した。時間5トンの超純水装置が欲しいらしい。24時間超純水を作るにはEDIしかない。イオン交換樹脂では純度を保つのは数週間しかもたないから、樹脂の再生のランニングコストがかかるのでEDIがいる。時間5トンクラスのEDIになると、他社では5千万円ほどかかるし、メンテナンスの費用も安くはない。この金額に驚き、当社を尋ねたのだ。私達は何時も、厳しい条件の仕事を承知で引き受けている。我々はプロだから引き受けた以上、課題を克服するまで、挑戦して応えをだす。昔し、琵琶湖の淵にあるホテルの仕事と北九州の病院のRO膜の前処理を頼まれたが、上手く行かなかった。井戸水は、従来の沈殿法や砂濾過、活性炭だけでろ過する方法では、今日の井戸水を水道水レベルまで濾過して基準値以下にするのは難しい。フミン系の色度、マンガンの除去は特に難しい。マンガン砂を使い、軟水器の樹脂を使うやり方もあるが、まめにメンテナンスを必要とする。RO装置を使えば浄化出来ると思うが、前処理をしないとすぐに、膜が詰まるし、使い物にならない。しかし、膜で前処理をすると、RO膜の寿命も長くなる。半導体や薬品会社にRO装置や超純水装置を納入しているが、企業なら、超純水装置を使う業種の人はRO装置を熟知しているし、メンテナンスの話も通じるが、素人に売ると、理解が出来ないので、売り難い。
 下妻のオーナーから井戸水を使いたいと相談を受けた折り、水質を調べると従来のろ過方法では手離れが遅いので、純水装置を奨めた。人柄も良かったし、場所も近いので、民生用の生きた教材になると思い、大型装置を販売した。前処理に自動洗浄のMF膜を装着し、水が不足すると時間4トンまで増設できる設計にして、最新の浄化装置を納入した。この仕事は多くの教訓を得た。部屋数に応じた水量が把握できたし、MF膜で前処理すれば、ROの装置も安心して使える目処がたった。
 千葉のスーパーからも依頼があった。ここも厳しい条件だった。井戸水の水が臭くて使えないと言う。最初は時間2トンの処理を100万円でと話があったが、50項目全てをクリアーするには予算が小さいので、断ったが、金より、当社の実力を測る上で水野に純水装置を組み込んだ水の自販機を改良するように頼んだ。勿論、前処理には膜を使い、二種類の水が汲める設計にした。実験には酷い水の方が良いので、データー集めが目的だった。純水は問題なく合格したが、膜単体では、色度が5.2度だった。基準は5.0度以下だから0.2の世界、手応えがあった。

 先月、東京ビックサイトの国際展示場で行われた展示会に台東区の防災課の担当者が見えた。災害用に使えるかと質問され、8月8日に台東区の2ヶ所の災害用の井戸水で浄化テストを行った。事前につくばで、テストを行い、水質分析は栗田工業の分析センターの方に立会っていただいた。即座に分析してくれた結果、色度は10分の1、マンガンも10分の1の値だった。計算通りの数値だったが、裏付けはとれた。この値なら、台東区、ホテル、スーパー、全てに対応できる。勿論、ビジネスは分析の値だけで、成約できるほど甘い物ではないが、数値が悪いと話にもならない。台東区の分析も大幅にクリアーした。順調に話が進めば、防災の日に当社の大型の浄水機が都民に披露される。同じく、展示会に新横浜のホテルのオーナーが見えられた。ホテルの仕事を頼まれた。今回、色々仕事を予想して実験を重ねてきたが、技術の裏付けが出来、準備が整いつつある。

 東大の教授から『ものつくりの口座』を頼まれ、授業に来た学生からアルバイトをしたいと頼まれてたが、困ってしまった。気持ちは分かるが、東京からつくばまでは通えないので、何度も断っても働きたいと言う。今の学生は企業ではすぐには使えないから避けたかった。私の会社は人目には暢気に見えるが、凄い仕事量をこなす人間しか役にはたたない。しかし、一つの提案を持って東京で会うことにした。出勤しなくても、私がテーマーを出すから、論文を書いて欲しいと頼んだ。名刺も作った。肩書きは東大ビジネス実習生にした。台東区の打ち合わせに同席させ、即戦力として使う事にした。彼女は目を白くして驚いていた。何をするのか分からないのに、会議に同席し、災害非常用の浄水機の担当をさせると言った。5分ほどヒントを与えたが、数日たって、彼女から電話があった。メールを読んでほしいと言う。

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川手さん

こんにちは。
レポートを作ろうと思って、まず、目黒区・板橋区・練馬区・新宿区・墨田区
の防災課にメールを送ってみました。
内容は、
*水質基準50項目を満たすようにどのような工夫をしているか。
*飲用水を提供するために隣接区や水道局から水を供給してもらうか。
*給水の拠点は、被災者を支えるために十分確保されているか。
*緊急時の飲用水の確保について苦労していることは何か。
*「給水拠点の整備は都が対応、給水拠点から区民に対する給水は区が実施することになっている。」とあったのですが、給水所、応急給水槽から飲めるように調整された水をいつでも使えるように用意しておくのは都の役割、ということか。
*ろ水機の点検は、どのくらいの頻度で行っているか。
*ろ過機を使う上で不便なことなどはあるか。
というようなことについて教えてほしいと書きました。
ほかの区についても、電話をかけたり直接いって聞いてみたりしようと思っています。
このような質問内容でいいと思いますか? これとは別に、
どの区も東京都の水道局が持つ施設にかなり依存しているように思われたので、
まずはインターネットで調べたり、調べて集めたデータから本当に東京都の施設だけで十分な水を供給できるのかを計算してみたりしようと考えています。
見当違いなことをしていたら教えてください。
よろしくお願いします。

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 私は新日鉄時代、開発企画の仕事を長く担当した。勿論、課内には東京大学の人達も多くいたので、能力には驚かないが、レポートの内容には驚いた。言葉もボツボツと朴訥に話すし、目立たないが、ポイントは外さない。素晴らしいビジネスセンスに驚いた。社会の為に、何か役に立ちたいと言って当社を選んでくれたが、将来、凄い仕事をする予感がする。私はつくずく人を見る目がない、と彼女を見て思った。当初は心からアルバイトに来られると困ると思っていた。水野は断る事には、口には出さなかったが、反対で、一緒に働きたいと思っていた。大学の教授も彼女を推薦した。彼女も働く事を望んでいた。彼女は仕事に慣れて来ると、近い将来、大きな成果をだす予感がする。9月の防災の日、当社の災害非常用浄水機が採用されれば、勿論、彼女に全てを任せたい。窓口業務から調査まで、担当してもらう積もりでいる。彼女が任されて、仕事が失敗したらと心配していたが、手を抜かずに働いて失敗しても構わない。必ず次は勝てるので、成果を考えずに働いて欲しいと思う。夏休みが終ると冬休みも春休みも働きたいと言う。私の会社がここ2年間で大きく成長して、本格的に就職したいと思われる会社になればと、彼女を見て思った。膜の世界では多分勝てると思うが、有望な若手を見る度にその力を借りて、頑張ればれば実現が出来そうな予感がして来た。