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■ 危うい社会に生きる2013/09/21 (Sat)

 9月1日「防災の日」に、台東区で恒例の防災訓練に参加し、当社の『非常時くん』と命名した浄水器を披露した。区民に分かりやすく説明し、参加者からも好評の声を頂いた。今後もより良い装置を開発し、この分野での第一任者を目指したい。

 東京オリンピックの招致が決まり、何故かほっとした。大金を使って今更開催してもと思うが、若者が喜ぶし、刺激的行事でもあるので、成功して欲しいと願う。汚染水の処理を含め難題山積だが、政治家は何故か楽観的で、摩訶不思議な人種に目える。本当に汚染水をコントロール出来ていると思うのか、言葉が軽すぎる。

 神奈川県秦野市のロータリークラブの会合に出席した帰りに新宿に降りた。新宿は約10年間過ごした場所だ。独立して先が見えない時期に模索した地だったが、昔の面影はなく様変わりし、街全体が広告の狂気めいた世界だった。とても1000兆円を越す債務国には見えないし、汚染水の影響も感じられない別世界を見る感覚だった。週に一度、東京に出掛けるが、どんどん外見は変化しているのに中身は消失する感覚に襲われ、日本の“似非繫栄”を見ている気がする。7年後のオリンピックまでには、もっとけばけばしい姿に変わるのだろう。

 汚染水の流出は、国を揺るがす要素になると危惧している。海に流失して汚染が薄められて何とか誤魔化して済ますつもりでいても、かえって問題は拡散する。私は汚染を防ぐために、海域を埋め立てるべきと思うが、安倍首相の招致プレゼンでの“安全宣言”を聞いても違和感がある。国民の多くは意外に楽観視しているのか、事実から目をそらしているのか、東京の変貌社会を歩いていても全く恐怖心が沸かない。

 私のような被爆者が放射能を甘く見ないでと叫んでも、日本人の多くは、放射能の怖さを知らないし、怖さを体験していないので、今回の汚染水問題は遠く離れた田舎で起きた水漏れ事故にしか感じられていない鈍感さが怖い。物の値段が上がりだして、東京駅周辺も新しくなって渋谷、新宿などは迷うほどの変わりようだが、揃って物価は高い。加えて消費増税も上がる。富裕層には物価があがると株高であぶく銭が増え、貧困層は更に苦しい生活に追いやられる。しかし、貧困層の苦しみは統計には表れない。この時代を掻い潜って生きる策を見出さないと苦しい。私は、極力“スローライフ”に徹している。

 当社の装置は、水に困っている方が買われる。消費税が上がっても、水に困る人はいるし、むしろ客の要望は高くなるので、慌てる必要はない。海外の富裕層の数も増え、水のマーケットも急拡大している。上手くことを運べば入れ食い状態だ。技術の貯金もあって、部品調達も揃い、高度な浄水装置もあっと驚く価格で供給できる環境が出来たと思う。私も71歳になるが、独立して、水ビジネスを信じて開き直って生きて来た。今後も未来は成行き次第で生きたいと思っている。

 9月5日、仙台を訪問し、復興事業の仕事に呼ばれ、塩分、鉄分が高い難しい案件の下見に出かけた。思ったより小規模な仕事だった。今、ベトナムから廃水処理装置の話があって、水量は何と250t〜500t/日の大型装置開発依頼だ。10年前なら日本の大手企業が担う規模の装置を当社のようなミニ会社に依頼してくる。発展途上国の発想は、豪快で怖いもの知らず。日本の被災地は、6t/日規模の装置。成熟社会と成長社会の感覚の差を見て、私でさえおのずと関心は世界に移る。

 今年は猛暑の夏だったが、急に朝夕過ごし易くなり、日によっては温度差があり過ぎて、体全体が傷み出した。猛暑に慣れた筋肉が、急な冷え込みで萎縮したのか、痛みがひどい。透析で血を入れ替えている身だし、気温の変動が身体に痛みとして表れたのだと思う。この対策として、遠赤サウナ、輻射パネルの暖房と揃えて、寒さを迎え撃つ準備を整えている。

 ブータンに、浄水器を寄付する仕事も完成し、『RHプリンスビラJAPAN』と名づけ、“コンパクトに高性能”にこだわって開発した。台東区で披露した装置をコンパクトにして、ベトナムやバングラデッシュにもこの機種を投入する。EDIの大型装置も仕上がった。この装置は、汚染水の濾過に役立つと感じて、MBRの装置の開発も進めている。新日鉄のプロジェクトである筐体製作依頼も順調に増え、自然発生的なスピード感が嬉しい。仕事は急成長ではなくスローで目立たずに進む形が望ましい。

 プラントパワーも18本まとまった注文を請け、値引きして販売した。今年の2月には、農林水産省の九州沖縄農業研究センターで開発した“すいおう”というサツマイモの種イモを頂いた。この猛暑の中でも大きく育ち、味噌汁などに入れて試食してきたが、くせもなく美味しい。生で食べてみたくなって、寿司屋の店主に頼んで、酢飯に巻いて貰い、恐る恐る食べたが、とても美味しかった。薬草のレベルで、血圧や血糖値の上昇を抑制する効果があるとされる。抵抗感も全く無く、漢方薬として楽しめる気がした。来年は芋を植え、アクアポニクス栽培したりして、生産量を増やす予定でいる。

 新浦安の事務所は、オリンピックの会場に近く、改造して輻射パネルのショールームに変えてみたいと思う。隙間産業として、水の仕事を選び、開発ひと筋で続けて来られたのは、贅沢さが力になった気がする。水の仕事は、小さなビジネスから大きなビジネスに育ち、独立して手掛けた水の自販機も全国規模に広がり、防災装置も26000人分の飲料水がつくれる装置も、贅沢さが実って開発につながった。

 海外も、ロータリークラブを経由して水問題の解決に取り組む仕事も増え、脱隙間産業から、国際的なビジネスにまで広がりだした。当初から水問題は世界的な課題だし、日本国の看板と零細企業のコストを活かすと負ける要素がなかった。不足していた会社の看板と信用、大手崇拝の意識の壁を如何にして破るかが唯一の問題で、必ず時が解決すると達観していた。余生は“儲けもん”と思って、病と道連れで生きてきたが、海外からも声がかかって少し欲も出て、もっと貢献できるスケールの大きな仕事にも取り組んで若手に託す気でいる。

 水の世界に飛び込んで、60歳の時に腎不全で倒れ、透析の膜を見た時、この膜を見て、大型膜を使った浄水装置を開発してオール電化の波に乗って売り出した。失業した時は何もかも失って、ゼロからの再起だったが、組織の縛りがない快感と、「勝つか負けるかの世界」でリスクが刺激的で、苦しくも命がけで楽しかった。膜に出会ってから柱が出来て生きる糧になりだした。

 27年前、鉄鋼新聞に私の小論文が掲載され、“大ボラ吹き”と批判され退職勧奨を受けた。今、振り返ると、当時は向こう見ずの構想だと受け止められたが、今では当たり前のことで、妬みと嫉妬でサラリーマン生活を終えた。今回の汚染水問題で、海を埋め立てて漏水を防げと言う意見も、大胆な提案に見えるが、当たり前の提案で、埋め立てて、防止した汚染水に、膜装置を使ったEDI装置で汚染水を濾過し、海水と混ぜて希釈する方法が最適だと提案している。私たちは、水の専門家、既にこの装置の開発に着手している。

 政府は、「汚染水は完全にコントロールされている」と公言したが、その後、汚染の数値が次々と公表され、事態が深刻さを増している。政府の意見を鵜呑みにする人はいないし、目に見えない放射能を、完全にコントロールしていると豪語する“ごう慢さ”が危険だ。私たちは常に“水漏れ”と戦う職業で、素人が簡単に結論を出せるほど漏水は甘くない。私達には少し技術の貯金もあるので、何か手助けが出来ないかと思って模索しているが、今の社会は無冠の意見に耳を傾けないが、行き詰まって、のたうち廻った後に結論が出ると見ている。

 消費税が上がれば、オリンピックで浮かれムードは吹き飛ぶと思う。世界の景気も中国次第でほぼ決まると思うが、停滞感は深刻だ。私は大混乱を意識して、在庫も販路も増やして予想もできない事態に備えている。来年は死んだふりをして日々を送る最悪な年になる感じもするので、世間を冷静に眺める生活にしようと、今から決めている。

筆:川手恒義