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■ 空力による浄化、名称:ボニート2013/01/30 (Wed)

 私と水野は今、東北の被災地である石巻市から、地下水を農業用水に使う為の浄水装置を頼まれて製作し、早々に納入する。津波を被って塩分を含んだ地下水を濾過し、農業用水にするという難しい仕事をうけた背景には、防災用の多目的浄化装置への意欲もあった。安く請けたのも、やはり被災地に貢献したい気持ちと、当社の経験を生かした仕様を採用したいと思ったこともある。今回の顧客は、現地で農業資材店の代表をしている有力者だが、本当にこのような水を濾過出来るとは思っていないような節もある。塩分以外にも、瓦礫が積まれた影響か、鉄マンガンが多く含まれていて処理が難しい。他に請ける業者がいなかったので、藁をも掴む心境で注文したと思う。

 インド、中国を含め、東アジアの躍進は目覚ましい。しかし、一人当たりのGDPになると日本と比べて低い。震災前、インドのムンバイを訪問した時に、団地の汚水処理の相談を受けた。10トンタンクに生活排水を溜めて、砂ろ過と樹脂を通すだけなので、すぐに詰まると嘆かれたが、周辺まで広がる臭いも、その酷い現状を訴えていた。インド政府にとっても、汚水処理が最大のテーマになっているので、仕事は無限にあると勧められたが、最初に提示された予算は6万円で、耳を疑った。インドに出向く飛行機代にもならないと断ると最終的には200万円弱までならと膨らんだが、結局ははっきりしなかった。インド側の予算に、最初こそ腹が立ったが、考え直してみると、当社は、最新の膜技術にこだわって生きて来たが、海外のコストを考えると、品質と技術が如何に優れていても、話にならないと思い至った。

 浄水プラントを安くするには、「生物処理」が必須で、バクテリアが繁殖出来る接触材が必用になることは10年前から知っていたが、なかなか最適な接触材がなかった。根気強く探し求めていたが、最近、違う素材として紹介されて、入手することが出来た。この接触材は、最初から微生物が住んでいて、遠赤を出すことも分かっている。大学と企業が組んで実証実験しているというニュースを聞き、その接触材の力を確信した。

 今回の石巻市の浄水プラントは、小さなプロジェクトの一つだが、この装置が出来ると農業用の肥料水に使える装置にもなる。水耕栽培にも発展出来るし、成長産業の柱に農業が重要な仕事になるので、有望だと思う。

 今回のプロジェクトで生まれた装置の名を“ボニート”に決めた。ポルトガル語で「きれいな水」と訳す。澄んだ水が川底から伏流水として湧き出す動きが装置のそれとそっくりで、この動きを意識し名付けた。廃水の仕事も、最終目的は“水のリサイクル”だ。濾過には、「酸化」も必要なので、空気を含んだ流水を使わないと出来ない。

 本業である水の仕事も、規模は小さくなったが、ニーズは多目的になり、要求も厳しくなっている。最近の5年間は、中国と組んで彼等のパワーを体感してきたが、最近は中国人も色褪せて、焦りが見える。このままでは自然消滅に近いと感じていたので、今回の案件は、日本にある資材で装置を製作した。

 アルジェリアのテロ事件で、天然ガスプラントの技術者らが命を落とした。貴重な人命と技術を一度に失ったことは非常に惜しまれる。私も企業戦士として、同じような大規模な施設で昼夜なく働いたので、彼らの無念さは痛いほど分かる。私自身も、以前と比べれば小粒の仕事だが、プラント技術の経験があるから、今も働くことが出来る。何歳になっても必要とされる技術を持つ方が亡くなられたことは、とてつもない損失だと感じる。日本は資源も少なく、内需が縮小しつつあるので、自然と海外へとシフトせざるを得ない。

 現在でも、160ヵ国に30万人近い日本の技術者が働き日本を支えている。人材を育てるにも、まずは仕事で、仕事がなければ生き残ることは出来ない。技術の習得には、長い時間と経験、また資金もかかる。技術大国と言われる日本も、技術者自体が減り、若い人が育たない中、今は年配の技術者に依存している。しかし、どんなに意義のある仕事でも、下請け的な位置付けになると、益々紛争に巻き込まれる危険性は高まる。本来なら、その人たちを国が守るべきだが、いつも安全は後回しにされている。

 私はずっと、インドや中国などの海外を見据えてビジネスをプランニングして来たが、今回の石巻市の水を見て、本気で国内需要を考えだした。劣悪な水を浄化する仕事が日本にもあるなら、小型化を考える必要性が出て来た。今回、研究費を頂いたつもりで、活かされる機会のなかった当社の10年間の経験を形にしたが、とてもコンパクトにまとまった、大変良い装置に仕上がった。

 まず、塩水を含んだ原水をブロアーで分離させて、同じタンク内で二層にして、好気層と嫌気層に分ける。次のタンクで、MBR膜を通して、軟水器で鉄・マンガンを除去して、RO装置で純水をつくるという工程だ。鉄・マンガンも、一次タンクで空気と水流の力で酸化を促すのでイオン交換樹脂の負担を軽減すると見ている。詳細は、特許等の関係もあって、概要しか述べられないが、水で困っている方へ向けて、石巻市での実用化が終わって、システムの公開が可能であれば行いたいと思う。

 私も70歳を迎えて、年をとったが、知恵もついて自然の流れに乗って生きる術も身につきだして随分楽になった。日本社会全体も、被災を経験して変わり始めた気がする。