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■ 原発による汚染対策について(その1)2011/05/02 (Mon)

 どれほど働けるのか試したくて、思い切って中国の西安へ遠出してみた。前回のインドからオファーがあった時は、準備万端で出かけたが、予想通りの猛暑さと過密スケジュールで、心不全になってしまった。同行した水野や武藤氏まで、疲れで寝込むほどで、急遽私だけインドの病院に入院したが、万全の受け入れ態勢が整っていたので、大事には至らず、精神的には安心感があった。インドに出向く前に、二度の心臓手術を終えた疲れも重なっていたと思うが、無事に乗り切った。『アクアテックインディア』の展示会では、私の予想通り製品を揃えたメーカーにも会えたし、知人の水処理メーカーも数社出展していたので、有益だった。新しい材料を見て、収穫の大きい旅だった。

 帰国後の地元の病院での適切な治療もあって、再び回復し、4月の頭にも北京を訪問することが出来た。目的は、被災地に適した“バイオマス仕様タンク”の買い付けで、被災地の惨事を考えると、休んではいられなかった。北京の訪問は、インド滞在よりも短期だったこともあったが、人間の体は不思議なもので、インドの過酷さを経験した後だったので、心身とも強くなった確信があった。

 今回の中国訪問は、インドで見つけた新しい大容量のRO膜のメーカーとの交渉が目的だった。膜の材料は東レ製を使用し、ここ2年で急成長していて、インドには2年前に出進し、既に年間2万台を販売する実績を上げている。私の知る限り、この会社は世界最大の膜会社になると思う。日曜日の訪問にも関わらず、社長を始め、社員の対応も素晴らしく、休日返上で気軽に会ってくれた。部品を100セット注文していたが、準備も完璧だった。私も日本では働き者と言われるが、中国人も良く働く。

 杭州まで、新しい新幹線で行くことにした。杭州には三度目の訪問だったので、思い入れのある地だ。私の膜技術の出発となり、過去に韓国の膜メーカーの社長と訪れたこともある。二度目は、上海からバスと電車で向かったが、3時間はかかった。今回は、新幹線で僅か1時間という、非常に快適な旅になった。上海万博でお披露目されて話題になったが、目の前で見ると、空港を連想させるほどの規模で、その大きさに圧倒された。更に、新幹線に乗って驚いたのは、そのスピードに、静かさ、リビング空間の快適さだ。2年前に乗った新幹線は、時速250キロだったが、今回は数分足らずで350キロを超える速さで快走した。全てに驚くばかりだ。運賃も安過ぎるくらいで、東京〜静岡間くらいの距離のグリーン車仕様で、900円で運んでくれる。日本では想像も出来ない運賃だ。今年の10月には中国全土に新幹線が延長されるし、同じくらいにリニアも完成予定だ。これからの経済活動に大きく寄与すると思う。

 杭州からは、空路で西安に向かった。そこから約80キロ離れた、人口85万人の都市である地方政府から招かれていた。訪問すると、新しい工業団地が増設されていた。この街の特徴は、石炭産業が盛んで、エネルギー、アルミの金属加工、りんごや良質なトウモロコシの栽培が盛んで、財政面では豊かな街だった。この街に住む34歳の若い経営者が、工業団地の一角を10億円で買い上げて、新しい工場を建てていた。その工場の一部を当社に貸し、共同で、水処理装置の工場が出来ないかと提案してきたので、下調べも兼ねて訪問した。中国の人と話していると、規模の大きさと自信溢れるオーラに驚いてしまう。同行したつくばテクノロジー社の現地の社長が言うには、100万人を切る人口は小さ過ぎるので、ここよりも、西安で工場を建てた方が良いと言い出した。西安全体の人口は800万人、実働人口は、1500万人を超えるという。驚くことに、東京都と同じ人口だ。この街は、市内や郊外に世界遺産が点在し、観光面でも世界有数の街だ。新しい工業団地には、中国を代表するハイテク工業団地が密集して、観光・技術・産業、全てにずば抜けた街だった。西安には夕刻に到着したが、街中が夜間照明に色彩られて、街全体が浮き上がったような光景で驚いた。

 私も若い時から、多分100各国以上の国を訪ねたし、日本でも主要な都市は見てきた経験があったが、この街には、正直驚いてしまう。日常でも、オリンピックや万博の演出を見ているようで、ライトアツプの規模の大きさには圧倒される。この街で水のニーズが本当にあるのか、その実態を知りたくて、関係者とヒアリングをしたが、とにかく農村の水事情を見てみようと地元の大学教授の先導で、兵馬俑が出土した古墳近くの農村を訪れた。井戸水の状態を見せてもらったが、フッ素が多くて、その水を長期的に飲むと、「イタイイタイ病」のような症状が出るらしい。今は、工業用水並みの水道も併設されていたが、この水も濁っていて、飲むには躊躇われる様子だったが、我々が製作した装置を使えば、十分に飲料出来る水になると思う。しかし、同行した教授の話では、農村では、高額の浄水装置を買うより、この水を飲んだ方がましだというレベルの人が多くて、中国政府も頭を抱えているという。きれいな水で生活したことのない人に、いくら良い水を勧めても、彼らは受け入れないと思う。その為、近郊にある学校の教室に、当社が開発している装置を備えれば、きれいな水を体験してもらえるので、下手に説得するよりは早く進むだろうと提案してきた。学校に通う学生は、一人月に300円のお金を出して、飲料水を購入する。学校側が用意して、生徒に提供している。100人ほどの学生数なので、合計すると、月3万円が集まるので、20万円クラスのRO装置を造ってあげると、十分にリース販売が可能になるので、とにかく装置を開発するよう依頼された。

 インドの少数民族用に10〜20万円ほどで販売できるRO装置を開発しているので、中国とインドという世界最大の人口を有する二カ国に販売すれば、量が増え、コストも大幅に下がると思う。現地を訪れるたびに、胸が躍るような感動を覚える。多分日本でも、敗戦の焼け野が原の中、貧しくても、復興を夢見て心をときめかせながら、仕事のある喜びを感じながら、その心意気で、日本を世界第二位の経済大国に押し上げたと思う。

 今回、未曾有の津波災害を受けて、原発が世界的な規模で危険な状態になっているが、今や、日本人の感覚は鈍く、危機感も薄い。インドでも、中国でも、被災地における日本人のマナーの良さが賞賛されたが、実は、感動も怒りも、心自体が消え失せて、年老いて抵抗力のなくなった国民に成り下がった面も垣間見える。関東大地震の時よりも、日本の財政は悪く、現在は一千兆円を越す債務があって身動きが出来ない状態にある。冷静に考えて見れば、国の根本的な生き方を考えないと、この国は理論上、複興出来ない。この事実の厳しさをマスコミが冷静に分析して、伝えようとするものはなく、報道もしない。まるで精神論で国が復興するかのように報じている姿勢は、詐欺に近いし、長い目見れば国民を愚弄していると思う。政府のここ一ヶ月の対策案を見ても、全てが遅いし、到底、新しい発想の国づくりが出来るような期待は持てそうにない。菅さんが辞めたところで人材もいないし、日本の脆い実情が、やたらと目につく。ここ20年、効率第一で、経済優先の金儲けに猛進して、想像的な芽を育てておかなかった結果だと思う。

 私は20年前に大手を辞めて、独立した時に迷わずに、これからの20〜30年後の成長産業は、自然エネルギーの活用と環境ビジネス、つまり、飲料水を始め、高度水処理の技術が産業に育つと考えて、水の業界に全てをかけて取り組んで来た。今回の災害で水が断水し、電力が不足する事態になって、日本人の生活が如何に不安定なものであるかが露呈した。福島原発の放射能汚染の問題から、水への関心が高まって、水道水の安全にも、疑問符を持つ人が増えている。私は現在つくばに住んでいるが、霞ヶ浦の水の汚染がやがて大きな問題になると思っている。つくばを含め多くの日本人も、多分、この危機意識は心の中にあると思う。あまりにも影響が大きいために、恐すぎて触れられていないのだ。

 今回、千葉県にある旭町に津波が押し寄せて、大きな被害を受けた。そして、ここの辺りの農作物が、千葉で唯一、放射性物質汚染で出荷停止の処置が取られていた。その街の一画に、エコ住宅を保有する友人がいて、ここの地下水の浄化を頼まれて、被災前に訪れたことがある。この住宅の周辺に、米や野菜を植えて、自給自足の生活を営んでいたので、農地の放射線量を計測したところ、基準値を大幅に上回る数値が出てショックを受けた。畑はしないにしても、飲み水の放射能汚染から守れる浄水器の開発を依頼してきた。この要請に応じて、誰も手がけていない小型のRO装置を製作するために膨大な部品を集めて、今回の中国訪問で、100台分の部品をかばんに詰め込んで、つくばに帰ってきた。