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■ 『膜』について2009/06/25 (Thu)

 超純水装置が売れると、太陽グループの酒井さんを思い出す。酒井氏は分社化のエキスパートで、銀座に居を構え、経営塾を開いたりしてユニークな人物だった。時間、9トンの大型RO膜装置を品川プリンスホテルでお披露目したり、共同で「膜」の名でカタログを作成したり短期間だったが親交があった。提携の際、超純水装置・EDIを製造出来るかと質問されたが、残念ながら当時はEDIを製造出来なかった。しかし、これを期に技術を習得し、今はEDIのメーカーとして活躍出来る立場になっている。日本電子から超純水装置の点検を頼まれた。3年ほどメンテナンスなしで動いていたので心配していたが、順調に稼動していたと報告があった。技術の習得は、客からの要請から始まり、現場が教育の場になる。出会いは開発の糸口だし、メンテナンスは人との関係を作り、新しい境地を開いてくれるので大切にしている。技術習得の源に「膜」が大きなウエイトがをめ、同時に他社との差別化も果たしている。

 「つくば」は、住むと “特殊な街”だと思う。産総研等、研究関連からアドバイスを貰って開発の種も得られて重宝な街でもある。東京からだとかなり辺鄙な土地柄に見られるが、TXを使えば1時間弱。緑が多く、住みやすい、“穴場”だと思う。国を始め、有力企業の研究所も多く、この地で働く以上、常に世界を意識して新しい技術に溢れた会社にしたいと願っている。
 
 知り合った人から新聞の記事がメールで届いた。日本の水関連メーカーが海外においての事業拡大を急ぐ内容だ。クボタは海外人員を2倍に増やした、東レはシンガポールに研究・開発拠点を開設する、等と書かれていた。水ビジネス市場は世界規模での拡大が予想され、出遅れた日本メーカーは事業体制を整え、合併・買収(M&A)で巨大化する欧米の“水メジャー”への追撃を狙う主旨だ。注目は、日立プラントテクノロジーが、1月にシンガポールのRO膜のユニットメーカーであるアクアテックを買収した。現在、日立プラントが手がける膜分離活性汚泥法(MBR)に、アクアテックのRO膜ユニットを組み合わせた処理システムに取り組むらしい。市場の確保とコストの低減が狙いらしいが、日本企業の出遅れが露呈された面白い記事になっている。私は常に、日本の水処理技術が一番遅れていると指摘してきた。隣の韓国でも、野村サイエンス等が少し残っているだけで日本メーカーは殆ど徹退している。この内容で追撃すると言っても、既に差が広がり過ぎている。7月に、私の元に届く「膜分離活性汚泥法(MBR)装置」は、OEMで発注し、現時点では最先端の装置だ。クボタが社員を増員したと言っても、24名では少ない。私の海外の取引先の会社の営業・技術者は現地で1500名もいる。近々、一部の関係者にMBRを披露するが、UF膜同様、0.02ミクロンの平膜で作られている。7月5日ごろにお披露目したいと予定している。この装置は、一見の価値があると思っている。

 私は、常に「膜の供給地、つくば」を意識してビジネスモデルを描いている。膜に関してお客さんからも良く聞かれるので、今回少し、話をまとめてみる。
膜と出会っていなかったら、現在の主力製品であるホームクリーン装置は造れなかった。結論ありきだが、膜の性能はすごいし、使用用途に合った膜の選定をすれば、浄水にも排水にも使える濾過材だと体験してわかった。一般の人は膜に関して知る機会もないので、その性能や差は分かりにくいが、「膜」と言っても、NF膜、RO膜・UF膜・MF膜など種類は多い。当社は全ての膜を使った装置を独自で開発して来たので、要望さえあれば、どの種類の膜装置もつくれる。記事の中で世界中の水市場が拡大していると書かれているが、実態は“膜戦争”だ。素人からは、日本の膜技術・水処理技術が一番進んでいると思われているが、トータルな浄水技術でさえ遅れ過ぎて、追いつける状態ではない。私は膜に特化した会社を目指して来たので、「膜」自体は選択できる部材の一部だと思っている。問題は装置の価格だが、大差はない。

 NF膜とRO膜は、主に産業用向けに製作している。最近問題になったシリカは、RO膜では取れるが、NF膜では取れないので、導入の際は、シリカを含むかどうかを判断基準にしている。今回は「UF膜(限外ろ過膜)」と、「MF膜(精密ろ過膜)」に絞って導入に至る裏話を書く。
 私は6年前に腎不全になった。忙しく働いていたので、心身共に疲れ、診断の結果を知らされた。数日たって透析治療の見学を勧めら、そこで初めて、人工透析用の膜フィルター、通称ダイアライザーという膜を知った。“膜”フィルターは、血液中の毒素を膜で分離する。“透析治療”とは、全身の血液をこの小さなフィルター1本でろ過し、再び体内に戻すという仕組で命を支えている。こんなに高性能な物が、一度使うと廃棄されると聞き、更に驚いた。治療の恐怖よりも、この膜の威力に感心して、「浄化装置に、この膜を使える会社になれたら生き残れる」と思った。零細企業の社長は、生き残り策を一番に願って働いている。この願いは祈りに近い。大企業で働いていた時から多くの中小企業と接して来たが、生き残る会社は、“技術力”が基本になっていた。私も、生き残るポイントとして、常に先端技術を追求することを掲げてきた。
膜に興味を持って、日本の膜メーカーを調べて見ると、全て大企業が占めていた。一般的には、日本の膜技術・水処理技術が、最も進んでいると言われているが、コストが高すぎて、採算に合わない。このままでは何れ水処理の仕事は、手放すか、やめるか東南アジアに持っていくという、何れにしても「撤退する」方向になると思った。我々のようなコストの低い企業が作らないと、受け皿にはなれない。現に透析膜も、バングラディッシュやベトナムで作られているし、この程度の技術をコストの高い大手が独占することの方が摩訶不思議に思う。最初は「駄目で元々」で参入を考えたが、内容を知ると、規制で守られているだけで、すぐに真似ができる技術だと思えた。日本は、名だたる大手企業が扱っている商品には、特に医療関係の装置などは薬事法でガードされていて進出自体を難しくしてある。私が超純水装置に参入する際も、周りから反対されたし無理だと言われた。いつでも私の行動は無謀だと見られ、離反して行った仲間も多い。今では超純水装置メーカーになり、膜を扱う会社になれたが、それでも信じない人が多い。人間は、やろうと思ったことは、決意しだいで、大体やれると思う。“続ける執念”があれば、100%実現するものと信じている。昔、大企業で有望企業を調べ、新規事業を探す仕事で、何百社も調査したが、難しい仕事よりも案外簡単な仕事で儲けている会社が多かった。

 東京の展示会に一体型のEDI装置を発表した時、同じ会場で、日本を代表する膜メーカーが大型膜を展示していた。ここで研究者と知り合い、工場に招かれた。当社のように超純水装置を造れる会社は日本でもザラにはなく、高純度の水を造れる技術で評価は高い。私の興味は“大型膜”だったが、当時は需要も少なく、まだ量産技術も確立されていなかった。
 少し時間を経て、偶然、韓国から膜の材料をPRするメールが届いた。すぐにつくばの事務所に社長を呼び、大型膜の開発と製作の提携を完了し、猛スピードで膜を購入する目処がたった。膜のデザインは私が提供し、数ヶ月かかったが、手作りで、MF膜が誕生した。原料のストロー状の糸はドイツ製の機械でつくり、外観は日本製やカナダ製など、意識するメーカーの膜を調べ、工夫と改良を繰り返して造った。病院で膜を見てから既に一年経っていたが、念願の“膜メーカー”に近づけた。予定通りに進んだので、嬉しくて、病気の苦しさも吹き飛んだ。オリジナルの膜さえあれば、自分で価格も決められるし、世界の膜の情報も手に入る。6年程経つが、当時は買えなかったUF膜も、世界最大の膜メーカーから直接仕入れ、10インチもの大型膜も、隅田公園に納めたRO装置の前処理膜として、また士別のしずお農場、多摩の福祉施設にも納入した。EDI装置のセルも、メーカーから直接購入出来る稀な会社に成長できた。やっと、企業としてスタートラインに立てた気がしている。

 MF膜の開発に漕ぎ着けたが、膜の市場はなかった。もの造り、開発する事は努力次第で、大して難しい仕事ではないが、「売ること」は至難の技になる。日本では98%以上が今でも水の浄化に砂濾過を使う。砂で濾過するので、微細な汚染物質は取れないが、それを疑問に思ったり、改善したりする動きは見えない。MF膜の孔径が0.1〜10ミクロンで、誰が考えても膜の装置が砂濾過より優れていることは分かるが、変えようとしない。公共事業のろ過スペックは今も砂濾過が主流で、他は使えない状態にある。更に、UF膜は孔径が0.01ミクロンと小さく、分子量で千から数十万の高分子で、それぞれに分離出来る物質のサイズが違う。UF膜の微細な孔で濾過すると、イオン化した物質以外の固形物、コロイド状物質(SS)などほとんどを取り除く。砂濾過とは比較にならない浄化能力だが、精度が高いほど何故か、“価格の高い贅沢な装置”と見られて、売る人も買う人も見つからなかった。日本の業者は新しい技術を追求する風土に欠けていて、施主から真面目に、与えられた仕事をすることが大切で、砂濾過でもMF膜でもUF膜でも仕事があれば良いと言う考え方が一般的で競争が起きないので進歩がない。
 市場が見えない中、私は“井戸水”に絞って市場の開拓を進めたが、世間は無反応だった。韓国でも未だに普及はしていない。しかし、井戸水の浄化には、規制も無く、誰も手がけない分野だし、ビジネスの視点から見て、将来有望市場になると確信した。調査で井戸ポンプのメーカーに出荷台数を聞くと、30万台以上あるらしく、意外に大きい“井戸水の市場”が浮かびあがった。
 一般的には、“水道水が安全”で、“井戸水は危険”だと思われているが、水道水も一概に“安全だ”とは言えない。年々水質は悪くなっていて、魚が死滅する原因に水の影響も否定出来ない。水道の水質は安定していると言われているが、水道水の濾過の過程は、【生物処理→活性炭→塩素殺菌】されただけで、特別な技術で濾過はされてはいない。近い将来、水道水にも膜処理を導入し「高度膜ろ過処理」を目指す自治体もあるが、全体に普及するには予算上、厳しい。  
 今では井戸水でエコキュートを使うマーケットが少しずつ広がりだした。膜にイオン化物質除去装置をつけて、「ホームクリ―ン装置・イオンキラー35」を世に出した。産業界では当たり前の技術だが、民間ではまれな商品になった。プロ向けの工業用品を、民間用に投入することで、膜の市場が開けだした。最先端の膜技術をお茶の間に登場させ、身近で、より安全な水を供給出来る膜濾過浄水器が商品らしく売れ出した。今後は、水道水用にも膜を販売し、UF膜フィルター単品での浄水設備として販売を推奨し、全国に展開していく予定だ。
 
 販売は販売会社に任せてメンテナンスはメーカーが直接責任を負うシステムも考えている。膜フィルター単品を売るのも一案だし、気軽に取り組める仕組をつくりあげたい。この仕事は、長く続けると有望な仕事になるし、世の中は不況だが、水の世界は好調で、欧米では巨大な企業群に育っている。日本の社会も、「会社に行けば簡単にお金が貰える時代」は終わり、企業の存続すら危うい業種も増えている。当社の場合は、膜を扱ってから急激に成長した。『水と生活』『超純水の産業分野』もエコキュートを通して広がりつつある。これらの仕事を通じて得た信頼性が、新日鉄・リコーが組むプロジェクトに招かれたり、役所から災害用の浄水器の製作を頼まれたりするのだと思う。ネパールからも浄水器の寄付の話も来ているが、この案件も災害用と同じく「二重ろ過式ホームクリーン」をベースに考えている。  

 産業分野への進出もエコキュート向けの製造技術が、ヒートポンプ向けのRO装置、半導体向けのEDI装置に生きている。ホームクリーンの一台の販売では利益は6万円だが、量が売れると信用ができて、超純水装置の部品代も安くなる。災害用にも同じ部品が転用され、全てが循環すると仕事の幅は広がり、小さな仕事だけに波及効果は大きい。水の仕事は小さな産業だが、広がると全産業にわたるので、信用が高まるほど利益につながる。