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■ 心新たに、4月2009/04/01 (Wed)

 昨年の9月、台東区の災害用の浄水設備に続いて10インチの大型膜を北海道・士別の牧場に納入した。その際、大型プラントの設置を数名で完了した。この経験で、浄水から排水処理までのトータルな仕事を少人数で請けられると確信できた。4月には老人ホームにもこの10インチの大型膜を使う予定でいる。中旬には私と水野が平膜のメーカーに訪問して、スペックを確認する。完成すれば、九州・下関・岐阜・北海道の友人たちに技術を供与して全国に販売網を展開したいと思っている。

 麻生首相はこの況は全治3年と発表したが、本当にそうだろうかと疑問に思う。多分、このままの低水準で経済が進むと覚悟した方が正しい。私の周辺だけを見ても、ものづくりや農業が衰退している。全国で、お年寄りが増えても収容する施設は不足し、病院で診察を受けても治療費が払えない人が増え、子供を生みたくても、出産することすら難しい環境にある。派遣で職を失う人が増えて、購買力が低下し、ものが売れなくなっている。地方自治体の財政も厳しく、とてもではないが、全てが3年後に回復するという夢は持てそうにない。政府が打ち出す経済対策は、大手企業には効果があっても、中小、零細企業には即座に恩恵は及ばない。大手企業は昨年の9月までは膨大な利益を上げ、内部留保を貯めてきたが、労働者には還元せず、むしろ給料は下がっていた。そのこととよく似て、大手の恩恵が直接中小企業に及ぶには数年以上はかかると思う。この厳しい経済状態の中で耐えられるかが問題で、景気の回復をひたすら待っているだけでは生き残れない。独自の人生設計、事業プランを立てて自らを守るしか方法はない。

 今後、伸びる産業に「エコ」が浮上しているが、「エコ」と叫ばれても、言葉が先行して、中小企業には実態が見えにくい。太陽電池や電気自動車が次世代のテーマになると言われても、大手企業は参入できても、零細企業にはあまり関係がない気がする。身近で手が届きそうなテーマとして浮かんでくるのが「水と農業」だ。水道料金も年々高くなるし、温暖化で雪水がへって飲料水が不足する事態も考えられる。異常気象で豪雨が各地で増えるし、“雨水の利用”が新しい仕事になりそうに思う。雨水と地下水を混ぜて浄水出来る技術があれば、立派な飲料水に生まれ変わり、身近なビジネスになりそうだ。技術は教えられるし、小額の予算で取り組める。有機肥料も扱っているので、家庭菜園など、手短な小農業で普及すると嬉しい。“排水のリサイクル”の仕事も有望になるので、日々思案している。

 日本のものづくりが衰退している今、3年後を考えると当社の下請けの会社の高齢化が進んで、ものづくりができるのか心配になる。私は、予備として、生産場所に、韓国も視野に入れ連携を模索している。理由は“ウォン安”と“高い技術力が揃った隣国”だし、日本と比べると経済規模が小さいので、世界経済が回復し始めると日本より回復のスピードが速いと思う。中国・韓国とは仕事で関係が深いので、このルートを生かしたい。

 最近、地下水の汚れがひどくなり、配管が詰まったり、ポンプが破損したりするケースが増えている。水質の悪い水を飲めるレベルにするには、高い技術が必要になる。5年程前に、井戸水を家全体で使える浄水器を考えたが、始めは難しく、膜技術の進歩によって、可能になった。エコキュートの普及に伴って、ホームクリーン装置を購入される人も増えた。アトピーにも効果があると認識されて、買う人もある。次の装置として平膜の技術を扱いたいので、時間3トンクラスの平膜装置を作らせた。世界的に水の需要が膨らみ、膜技術の市場が急拡大したことで、大幅に価格が下がりだした。そこに円高も加速しているので、平膜を導入しても採算に乗りそうだ。ユーザーの視点は常に“採算性”を重視している。日本人は水と安全はただだと思っている人もいるが、現実は、水はただでは飲めない程環境が悪くなっている。浄水することはプロとして当然だが、装置が安く、メンテナンスが容易な装置を作らないと庶民の心理には合わないので努力を傾注している。今まで、家全体を濾過出来る浄水器は世になかった。当社は、大型膜に目をつけて、OEMで大量に作ることで価格破壊を実現した。大型膜を装着して、イオン交換樹脂を加えて自動で制御出来る装置を製作して100万円を大幅に切る価格帯で販売に踏み切った。「水道料金を削減したいので井戸水に変えたい人」「井戸水を安全に飲みたい人」の要求に応えるには、大型膜とイオン交換樹脂の装置が必要になった。「排水を再利用したい人」も不況になって増えだした。「採算と安全」を両立させた装置をつくっていかないと支持を失うことになる。特に、福祉施設では水道経費を削減したいので大型の装置を安く提供して欲しいと要望されている。これからは、福祉・医療分野の仕事も大切だし、コストを抑えた大型装置を開発し、提供する積もりでいる。

 半導体の超純水装置を受注したが、半導体の業界も厳しくて客のニーズに応えられる様に、技術力を磨いて低コストの装置を提供している。「生活の質の向上、更に+α」で購入を希望されるので、今後も、家庭用でも、レベルの高い装置を提供していきたいと思っている。

 今、最も期待しているのが平膜の技術だ。特徴を述べると、材質はPVDF(ポリフッ化ビニリデンの略称)で、純度の高い素材だ。この素材を板状にし、UF膜と同じ0.02ミクロンの孔を開けたストローの集合体を、フイルム状に仕上げてある。汚濁水に特に有効で、直接、汚濁水の中に沈め、ストローのように吸い上げて浄水を取り出す。平膜は、孔に汚れが蓄積しても、汚れを酸等で洗えるし、水の泡で汚れを取り省いて浄水することが出来るので井戸水に合っている技術だ。BOD(生物的酸素要求量)・COD(化学的酸素要求量)・SS(コロイド粒子等の濁りの度合い)・窒素・大腸菌・濁度改善にも有効とされ、「MBR:膜分離活性汚泥法」として排水処理に使われている。昨今、この技術が急速に進歩して通水量も増えて得がたい素材になりだした。この膜を使って汚れた水に空気を吹き込んで水を循環させながら使う。マイクロバブルの技術を組み合わせると、すごいろ過装置に仕上がると考えている。私はこの平膜を使って当面、時間3トンクラスの規模からスタートして、当社のオリジナル装置にしたいと準備をして、5月には、最新の平膜を使ったオリジナル装置が完成するので、公開したいと思っている。

 半年間、研修生を受け入れて技術教育をして来たが、順調そうだ。この若者にこの装置を担当させたいと思っている。数年間、水野に付いて仕事を学べば、現場での厳しさと顧客の喜ぶ心に触れて、戦力になると期待している。全国で、1000名の新卒の若者が企業から内定を取り消されたと報道されているが、実態はもっと多いと思う。既存の組織は次々と崩壊する時代だし、社会機構も予算不足で、縮小は避けられない事態だ。私としては、そんなものにしがみつかないで、自力で歩める力を身に付けて欲しいと思う。私も46歳で失業し自立を選んだ。0から始めたが、今は、一緒に働いて育てた人材に守られて、働いている。人生はツキも災難も浮き沈みもあって当然だ。つらいことも、過ぎ去ると、全てが楽しい思い出になる。私も、水の自販機から始めた仕事も、大型膜、平膜技術に会って、ドラマのような仕事に出会えた。仕事の現場は、想像より厳しいが、耐え忍んで顧客の笑顔の中で働いている若者を見ると、逞しさに溢れている。彼等の働く姿を見て、当社を実力メーカーに成長させないと、私の使命は終わらないと強く感じた。

 私の倉庫内に大型のプラント装置が並べてある。このプラント装置が動くようになれば、少し、企業らしくなるだろう。“開発”は私達のキーワードだが、もっとスピードを上げたい。零細企業が成長するには、スピードがないと勝てない。水の世界は敵も少なく、案外ぬるま湯の世界で緊張感に乏しい。日本の大学で水の学部が少ないせいか世間のエリート程、水の知識人や専門家が少ない。技術も20年間変化のない、遅れた世界だ。詐欺まがいの商法も多い。しかし、この業界は、頑張れば、小さな会社が大企業と互角に戦える稀有な世界で、大型膜プラントの仕事も小さな会社でも努力さえすれば扱える。小が大を喰って“かっこいい仕事”でもある。ものづくりが廃れてしまうと、社会は寂しくなるが、零細企業に特徴力があれば、希望の星になれる。零細企業が一般の社会で、台頭するには技術以上の障壁が多々ある。公共事業の入札でも猛烈に工作されて指名からはずされたり、財団の仕事では、理事会で実積がないと反対されたり、日常茶飯事だ。しかし、障壁が強くても壁は乗り切れる。障害があるほど力が付くと思う。大企業のトップのスタッフとして働いた経験もあるが、若者はやり直しがきくので、独立も視野においても良いと思う。生きるか死ぬかの人生。社会は広く、スリル万点し、挑戦して楽しめば、優れた商品にも人材にも、めぐり会う事もある。私でも、産業界に、技術革命を起こすことだって出来るのだ。

 例えば、私が通院しているつくばの病院の規模では、時間15トンクラスの「砂ろ過装置」が採用されている。この規模は、全国の中堅病院の規模で、大病院になると時間30トンの水を使う。水道水を使うと採算に合わない。しかし、大量に井戸水を使うには、今はほとんど砂濾過方式しかない。砂濾過は装置が大きくなり、タンク内の砂を逆洗浄する必要があるので、洗浄に使う水も大量になる。しかも洗浄には原水を使うので汚れた水で洗うことになって、汚れがタンク内に留まってしまうことになる。定期的に行う大型濾過タンク内の清掃、砂の入れ替え作業も、大変な重労働でコストもかかる。バクテリアの死骸で固まった砂を砕いてかき出し、また新しい砂を入れる工法だが、日本では99%の設備に使われている。私自身もかつては砂ろ過を扱っていたが、直ぐにこの原始的工法をやめた。この経験から「平膜」を使った浄水装置を開発すれば非常にコンパクトなろ過設備ができて、巨大な砂濾過は次第に過去の遺物になると思っていた。膜の性能は、人工透析で使われる“ダイアライザー”という膜フイルターと同じ精能でろ過出来て、安心して原水を利用できる。「浄水のプロセス革命」になるかも知れない。問題は、いくら優れた素材でも、従来の装置と入れ替えるとなると、業者の抵抗、意思決定の複雑さ、入札の仕組など、技術を阻む要因は多い。
 透析に通う病院の技術者にPVDF製の平膜のことを尋ねてみた。女性の技術者は詳しくは知らなかったが、横にいた男性の技術者は良く知っていて、川手さんの会社で扱うとはすごいと驚いていた。当社が扱ってすごいと褒められても、それが「売れる」とは限らない。大手企業でも金融不安で総崩れで、冒険はしないし、新しい技術に取り組む余裕も無い。しかし、もっと経済的に困窮すれば、会社の規模の大小や習慣にこだわる余裕はなくなる。私は決して慌てないし、技術の蓄積に専念して、力を付けて、世の中を変革したいと考えている。努力すれば、そのうち当社の装置を買いたいという変人の経営者も現れて、自然に流れが出来る。排水の利用も、客先のニーズから注文につながるし、「待てる能力」があれば、自然に仕事は増えると思う。かなり、商品郡も揃ってきたので、どんどん働いてすごい会社に育てたいと思っている。100年に一度の不況と大騒ぎだが、私にとっては100年に一度の大チャンスが到来している。日本経済がとんでもない状態になっているが、銀行では「環境・水関連」の評価が高いので期待に沿いたい。膜の会社として“実力のあるメーカー”になりたい。飲料水製造、産業用水製造、さらには海水淡水化前処理、下水再利用の分野に進出したい。私の仕事ぶりは、道楽にも見られるが、ビジネスは博打であり道楽でもある。しかし、確実に私の目標へ突き進んでいる。